糖というと、お砂糖、糖分、甘み、チョコレート、ケーキ、ジュースなどが連想され、今では健康的には悪者扱いされています。糖尿病患者が、予備軍まで含めると、1000万人とも言われる現代においては仕方がないことかもしれません。
しかし、糖は人間にとってはとても大切な栄養で、私たちが生きるためのエネルギーは、60%が糖から作られます。血糖値(血液内の糖の濃度)が50mg/dl下回ると死に至る可能性もあります。
私たちのエネルギーとして大切な糖ですが、オリゴ糖は、私たちにとってまた違った働きをしてくれます。
オリゴ糖とは?
オリゴ糖とは、糖質の最小単位である単糖類が2~10個程度結びついたもの総称で、小糖類とも言われます。オリゴとは少ないという意味です。明確な定義はなく、本来は二糖類もオリゴ糖の仲間なのですが、一般的には3つ以上の糖が結びついたものをオリゴ糖という場合が多いようです。
糖(炭水化物)の分類
分類 | 種類 | 構造 | 所在 | 性質 | |
糖
類 |
単糖類 | ブドウ糖 | 動植物に広く含まれ、自然界に最も多い糖質。穀物や果物や根菜類に多い | 甘みあり 水溶性 | |
果糖 | 果物や花のみつに多い。果糖の中で最も甘みが強い。 | ||||
ガラクトース | ブドウ糖と結合して乳糖に含まれる | ||||
二糖類 | ショ糖 | ブドウ糖+果糖 | 砂糖のこと。サトウキビの茎やてんさいの根に含まれる | 甘みあり 水溶性 | |
麦芽糖 | ブドウ糖+ブドウ糖 | 麦芽から作られる水あめに多く含まれる | |||
乳糖 | ガラクトース+ブドウ糖 | 母乳や牛乳に含まれる。乳糖分解酵素が少ない人は、乳糖不耐症となる。 | |||
小 糖 類 |
オリゴ糖 | 主にフラクトオリゴ糖や大豆オリゴ糖などの人工甘味料に含まれる | 難消化性 | ||
多
糖
類 |
デンプン | 穀類、いも類、豆類などに多く含まれる | 甘みなし 不溶性 | ||
グリコーゲン | 動物の肝臓や筋肉に含まれる | ||||
デキストリン | デンプンが加水分解されたときに生じる |
母乳から発見されたオリゴ糖
粉ミルクで育っている赤ちゃんの腸には大腸菌が多く、下痢などの病気にかかりやすく、死亡率も高いのに対して、母乳で育つ赤ちゃんの腸には多くにビフィズス菌が発見されました。
そのことによりビフィズス菌を増やす成分の研究が始まり、1950年代、母乳には、ビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖が多いことがわかりました。その後、大人がオリゴ糖を摂取しても効果が高いことがわかりました。
大腸にはビフィズス菌が大好きな炭水化物が少ないので、大腸まで届くオリゴ糖を待ち構えているようです。
オリゴ糖の働き
オリゴ糖は吸収されずに大腸まで到達し、善玉菌であるビフィズス菌のエサとなり、ビフィズス菌を増やします。ビフィズス菌が増える過程でオリゴ糖が発酵分解されると、酢酸などの有機酸がつくられ、腸内が酸性に傾きます。
すると、ウェルシュ菌などの悪玉菌が生息しづらくなり、腸内環境が良くなります。また、その酢酸が腸を刺激して腸の蠕動運動を活発にするため、便秘の改善や予防にも有効だと言われています。
ビフィズス菌とは?
ビフィズス菌は、1899年、パスツール研究所のティシエにより、母乳栄養児の糞便から初めて発見されました。その後、嫌気培養技術の進歩に伴い、母乳栄養児に限らず人の主要な腸内細菌であることがわかってきました。
ビフィズス菌は、乳酸や酢酸といった有機酸を生成し、悪玉菌の増殖を防いで腸内環境を整え、さまざまな生理機能を発揮します。特に、ビフィズス菌が生成する酢酸には強い殺菌力があり、悪玉菌の繁殖を抑えると考えられています。
また、ビフィズス菌が作る酢酸には、酢酸による殺菌力だけではなく、腸の粘膜を保護する作用があり、病原性大腸菌O157などの予防効果があることが知られています。
お酢として酢酸を摂ることもできますがお酢は消化の途中で吸収されて腸まで届きづらいというところがあるようです。
ビフィズス菌は、母乳により栄養を摂っている乳児の糞便に多く存在しています。私たちの腸内のビフィズス菌を強化するためにも、母乳に多く含まれているオリゴ糖の摂取が有効だとされています。
ビフィズス菌の形も重要
また、ビフィズス菌は、顕微鏡で見ると、V字型やY字型など特徴のある形をしています。乳酸菌などの善玉菌といわれるものには多くの種類があります。形もさまざまです。しかし、大きく分けると、長くて大きい桿菌と言われるものと、丸くて小さい球菌というものに分かれます。
乳酸菌などは善玉菌と言われますが、人間の身体の外部(外側)で良い働きをしてくれます。外部というと、手や足や顔などの表面の皮膚、これは当然、私たちの外部になります。
また、食道、胃、腸などの私たちの食べ物が通過する部分も外部と考えます。外につながる部分ということです。これに対して私たちの血管の中や内臓の壁の中など外部と直接つながらない部分が内部です。
乳酸菌などは私たちの外部で良い働きをしてくれます。外部の悪い菌などの侵入を防いだり、私たちにとって有効な成分をつくり出してくれたりします。しかし、内部に入ると必ずしもそうは行かないようです。炎症を引き起こしてしまいます。
そこで、乳酸菌などが、私たちの身体において有効に働いてくれるためには、内部に入らないことが重要です。しかし、小さな球菌では小さな傷口などから内部に侵入してしまう可能性があります。
これに対して、長くて大きい桿菌は内部になかなか侵入できません。ビフィズス菌も、V字型やY字型など特殊な形をしています。内部に入れないのですね。
オリゴ糖には、糖尿病の予防としての効果やダイエット効果も
難消化性のオリゴ糖は、消化吸収されにくいのが特徴で、そのためエネルギーになるのはわずかで、血糖値を上げにくい甘味料として利用できます。
カロリーは、砂糖が1g当たり4kカロリーなのに対して、1g当たり2kカロリーです。ビフィズス菌がオリゴ糖を分解して酢酸や乳酸を分泌します。その分のカロリーということです。
また、オリゴ糖は、低GI食品です。GIとは、食後の血糖値の上昇を示す指標で,グライセミック・インデックス(Glycemic Index)略です。つまり、オリゴ糖は、血糖値が上がりづらい食品ということです。
オリゴ糖が含まれる食品
フラクトオリゴ糖
ショ糖に1~3個の果糖がついたもので、便秘の改善や血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。
たまねぎ・ごぼう・バナナ・にんにくなどに含まれます。
ガラクトオリゴ糖
乳糖に酵素を作用させてつくられます。ビフィズス菌を増やし、タンパク質の吸収を助けます。
母乳やヨーグルトに含まれます。
イソマルトオリゴ糖
食品にうま味やこくを与えてくれます。
はちみつ、味噌、醤油、酒などに含まれます。
大豆オリゴ糖
大豆に含まれるオリゴ糖の総称ですが、他の豆類にも含まれます。砂糖のような甘みなのにカロリーは砂糖の約70%です。
パラチノース
砂糖を原料に人工的につくられます。砂糖の約半分の甘みですが虫歯になりにくいと言われています。
トレハロース
熱や酸に強く、食品の変性防止に使われます。虫歯を防ぐ機能を持っています。
乳酸菌は腸に良いことは分かっているが、なかなか腸まで届かないというのはよく聞く話です。オリゴ糖による腸内環境改善は、プレバイオティクス理論といって、乳酸菌自体を摂取するのではなく、乳酸菌のエサを摂取した結果、乳酸菌が増えるという考え方です。
今ではもっと進んで、その乳酸菌のエサを最も効率よく大腸まで届かせるには?ということが競われています。
私たちの健康にとって腸の状態がかなり重要であるということはわかってきています。では、どのように腸内環境を改善するのか? を知ることは、お子さんやご家族の健康には不可欠ではないでしょうか。
参照
明治HP
日新製糖HP
畜産産業振興会HP
ヤクルト中央研究所HP
ダイエットプラスHP
『栄養の基本がわかる図解辞典』 成美堂出版